研究について

【虚血】

⚫ 研究グループのテーマ

2020 年 度も虚血性心疾患、心不全、閉塞性動脈硬化症における病態の解明とその治療への応用を基本理念として以下の研究を計画および継続していく。

⚫ 研究概要

1)虚血性心疾患の危険因子である、耐糖能障害、脂質異常に焦点を置いた検討として、患者血清検体や臨床データを用いての検討。
① 虚血性心疾患患者における冠動脈危険因子に加え冠血流予備能や内皮血管再生因子と予後予測とに関連があるか検討を行っている。
② 冠動脈形成術後のステント内被膜の観察を冠動脈内視鏡で観察し、新しい動脈硬化病変の不安定化と関連の高いMT1-MMPの流血中単核球表面における発現とともに検討を行っている。
③ 安定狭心症における脂質強化療法の有効性を血管内超音波とバイオマーカーとの関連を検討を開始した。
④胸痛救急来院患者における急性冠症候群患者の急性期診断に、心筋構成蛋白トロポニンI,およびTの高感度キット使用におけるカットオフ値設定の検討を、救命救急診療を行っている多施設と行っている。
⑤冠動脈病変における心筋虚血の新しい指標であるFFRとイメージングデバイスを用いた冠動脈形成術における有用性の検討を行っている。

2)閉塞性動脈硬化疾患に対する積極的脂質への介入の有用性や、下肢における酸素代謝の評価を用いた病態の評価を行っている。
①下肢虚血疾患においては、内皮機能の改善と、血管予後の関連を見るため、血管内皮前駆細胞モニタリングの有用性を検討している。

3)心不全患者における臨床データと患者血清から得られるサロゲートマーカとの関連を検討。
① 超高齢者心不全への予後改善に有用な利尿剤治療を当院のデータベースから評価。
② 心不全患者におけるカケキシア、サルコペニア、フレイルの観点から予後予測の有用性を検討。さらに新しい抗心不全薬の作用メカニズムや多面的作用の検討を開始した。

4)基礎検討では、ヒト培養心筋線維芽細胞を用いて糖尿病患者に見られる、糖尿病性心筋症の発症進展メカニズム解明のため1.高血糖存在下における心不全の誘因となるリモデリング促進因子発現の評価、2. sodium glucose cotransporter(SGLT)受容体への修飾薬剤を用いた心筋リモデリング因子への影響を検討している。臨床検体からの末梢血単核球表面へのリモデリングマーカによる抗体標識を行い、血管動脈硬化疾患患者における発現と病態の関連を評価している。

⚫ キーワード

冠動脈硬化、冠動脈危険因子、心不全、慢性閉塞性動脈硬化症

⚫ 業績年の進捗状況

1)虚血性心疾患:①急性冠症候群におけるDPP4阻害薬を用いた介入では冠血流予備能や内皮血管再生因子への悪化を抑えることが見出し報告した(Intern Med,2019;58:2773-2781)。②冠動脈形成術後のステント内被膜形成が冠動脈内視鏡により色調による分類が可能となり、その動脈硬化病変の不安定化とMT1-MMP流血中単核球表面における発現に強い相関があることを見出し報告した(RESOLUTE ONYX CASE REPORT,2019)。③急性冠症候群患者への超急性期にPCSK9阻害薬による脂質低下療法により急性期における心機能マーカの改善がみられること報告した(AHA2019,Philadelphia:USA)。④急性冠症候群患者早期診断における心筋逸脱酵素トロポニンIおよびTの有用性の評価の方法論を報告した(BMJ Open, 2019年9月)。⑤冠動脈病変におけるFFRとイメージングデバイスを用いた冠動脈形成術における有用性を報告した(第67回日本心臓病学会学術集会)。

3)心不全関連:① 超高齢者心不全当院のデータベースを用い、経口利尿薬の有用性安全性を報告した(J Cardiovasc Pharmacol Ther,2020;25:47-56)。 ② 心不全患者におけるカケキシア、サルコペニア、フレイル評価が予後予測に有用であることを報告した(Eur J Clin Invest. 2021 Apr;51(4):e13426)。

4)重症下肢虚血肢(CLI)へのPCSK9阻害薬による積極的脂質介入により血管内皮前駆細胞への影響、酸素代謝、救肢への有用性を報告した(日本動脈硬化学会誌J Atheroscler Thromb. 2020 Sep 25.)。

⚫ 特色等

当講座内にて行われている研究は、臨床における疑問を基礎、臨床を問わずメカニズムからその制御までを基本的な考え方としている。特に動脈硬化を端とする冠動脈疾患に関する研究は、他の施設と比較を行っても独創性があり、科学研究費助成事業から多年度にわたり科研費の助成を受けている。またこれらによる研究の結果、業績より新しい薬剤や機材における有用性をメカニズムから評価することができ、ガイドライン治療の有用性を評価ができ、この年度は、薬剤や機器の申請に係る医師主導型治験(フェーズ2から3)の参加も多くなってきている。特に下肢閉塞性動脈硬化症おける新しい治療法におけるロータブレータ機器の保険適応に向けた高難度治療法への参加も、当施設の業績を踏まえて依頼されているものである。限られた研究資金、補助金ではあるが、日常診療による症例数が多いこともあり、独創的な研究を各スタッフが考案していること、他施設との共同研究を働きかけることにより、資金に関する難点をカバーしており、効率的には優れていると考えられる。

⚫ 本学の理念との関係性

福井大学の目指す教育・研究・医療及びこれらを通じた社会貢献とされており、特に、独創性でかつ地域の特色に鑑みた科学研究・先端研究を世界レベルでとなっております。当科における研究は臨床の疑問からの研究を発端としており、基礎メカニズムを基にした臨床治療への考え方を一貫しております。特に、最新の疾患の発症メカニズムの解明は独創的であり、新しい機器や薬剤の創造へつながる多くの研究を行い、日本国内に限らず、世界の場での発表や国際誌への掲載を行っております。さらには当施設が研究アイデアを立て、福井県内外の施設とも共同研究をおこなっており、本大学の長期目標のひとつにも掲げられている「教員一人ひとりの創造的な研究を尊重するとともに、本学の地域性等に立脚した研究拠点を育成し、特色ある研究で世界的に優れた成果を発信します。」にも合致した方向性が示されていると考えられます。




【不整脈】

⚫ 研究グループのテーマ

令和令和22年度も年度も不整脈不整脈、心不全における病態の解明とその治療への応用を基本理念として以下の、心不全における病態の解明とその治療への応用を基本理念として以下の研究を計画および継続していく。研究を計画および継続していく。

⚫ 研究概要

発作性/持続性心房細動・多発性心室期外収縮/非持続性心室頻拍・致死性心室性不整脈・左脚ブロックを伴う重症心不全などをテーマに“臨床における病態の解析、問題点の解明ならびに予後改善のための治療介入“を目的として研究を行っている.
① Xa阻害薬によるアブレーション術後の抗炎症作用の検討:心房細動施行前から術後1年までの経過で非再発率、炎症マーカー、凝固マーカー、心外膜脂肪などの比較検討
② 心外膜脂肪と心房細動の関係、心外膜脂肪と心房細動アブレーション後の非再発率の関係、心外膜脂肪と左房低電位領域の関係、心外膜脂肪と血液マーカーの関係の検討
③ クライオバルーンアブレーションの安全性の検討:多施設研究によるデータ解析
④ 多点同時高密度マッピングカテーテルを用いて、高周波カテーテル・クライオバルーンによる肺静脈隔離範囲の検討、及び心房細動器質の評価とその基質修飾による治療成績への影響の検討
⑤ 超高密度マッピングシステム(リズミア)を用いた心房頻拍・心臓外科術後心房頻拍の詳細な回路の同定と治療方法の確立
⑥ 心房細動の維持機序における機能的リエントリーの役割をExtra mappingを用いて検討
⑦ クライオバルーンによる天蓋部焼灼の効果の安全性と有効性の検討
⑧ 心房粗動の発生機序としての右房分界稜の役割を超高密度マッピングシステムを用いて検討
⑨ 心室性期外収縮の波形と不整脈起源の同定
⑩ 重症心不全に対する心臓再同期療法における各種バイオマーカー測定の意義:各種測定値と血行動態指標,左室線維化量,および症例の予後との関連の検討
⑪ 重症心不全に対する心臓再同期療法のresponder/non-responderの検討
⑫ His束ペーシングにおける心機能改善効果の検討
⑬ 従来型ペースメーカとリードレスペースメーカの比較検討

⚫ キーワード

不整脈、カテーテルアブレーション、心臓再同期療法、ペーシング

⚫ 業績年の進捗状況

1) 心房細動を合併した不整脈誘発性心筋症を術前にTroponin-Tを用いて予測することが可能であることを見出しJournal of American Heart Association誌に掲載された。
2) 肺静脈隔離後の左房線状焼灼において、高周波アブレーションよりクライオアブレーションの方が医原性心房頻拍を起こしにくいこと、クライオ線状焼灼の成功率を報告し、Journal of Cardiovascular Electophysiology誌に掲載された。
3) カテーテルアブレーション後の鼠径部合併症を単施設後ろ向き解析を行い骨盤造影CTの有用性、合併症のリスク因子を解明し、Journal of Cardiovascular Electophysiology誌に掲載された。
4) QT延長症候群患者と健常人でのQT延長に関与する共通因子としてゲノムワイド関連解析により3つの一塩基多型を同定し、遺伝子型陰性のQT延長症候群患者に対して多遺伝子リスクスコアリングの重要性を示し、Circulation誌に掲載された。
5) クライオアブレーション時にクライオバルーンをシースに挿入する際に水槽を使用すると空気塞栓が減少できることを証明し、JACC Clin Electrophysiology誌に掲載された。
6) 右室流出路起源を示唆する心室期外収縮のアブレーションで、右室流出路の焼灼に加えてその対側の左室流出路からのアブレーションが必要になることがあることを示し、Journal of Cardiovascular Electophysiology誌に掲載された。
7) 心房細動患者でPentaRay®/CARTO®3とOrion™/Rhythmia™システムでの左房の低電位領域のマッピングには不一致があることを報告し、Heart and Vessels誌に掲載された。
8) 心房頻拍のメカニズムを同定するために超高分解能マッピングシステムを用いることで、複雑な頻拍回路を同定し、適切なアブレーションの治療戦略が立てられることを証明し、Heart Rhythm誌に掲載された。
9) 通常型心房粗動の有無での右房後壁の興奮伝搬の違いを超高分解能マッピングシステムを用いて明らかにし、Journal of Cardiovascular Electophysiology誌に掲載された。
10)第4世代クライオアブレーションでの肺静脈隔離は、第2世代に比較して冷却中の肺静脈電位の確認はしやすいが、隔離成功率は第2世代のほうが良かったことを示し、Journal of Interventional Cardiac Electophysiology誌に掲載された。
11) 前立腺癌に対するホルモン療法によりQT延長を来たすこと、一部の症例で致死的不整脈に至ることがあることがあり治療中のQT時間のモニタリングの重要性を示し、Journal of American Heart Association誌に掲載された。

⚫ 特色等

当講座内にて行われている研究は、近年著しく進歩した不整脈に対する非薬物療法に関して、その有効性の評価、予後の予測、新しい治療方法の開発を目指す研究が中心となっています。カテーテルアブレーションにおいては日本に導入された最新のマッピングシステムを用いながらその有用性を評価・発表してきました。とりわけ心房細動の機序解明や心房頻拍・心房粗動の機序解明のための解析を積極的に行い、同時に抗凝固治療に関する血液マーカーを用いた研究も行っています。また積極的に様々な多施設共同研究も行っています。不整脈のメカニズム解明についても様々なマッピングツールを使用することで独創的な発表を行っており、これらの成果から科学研究費助成事業から科研費の助成を受けています。デバイス治療においても認可された新しいリードレスペースメーカー、ヒス束ペーシング、完全皮下型除細動器などをいち早く取り入れ研究を行っています。カテーテルアブレーション症例数は北陸随一の件数となっており、限られた研究資金の中で、効率的に独創的な臨床研究を行っていると考えます。

⚫ 本学の理念との関係性

福井大学の理念は教育・研究・医療及びこれらを通じた社会貢献とされています。当循環器内科学教室は患者様に最先端の医療を安全に提供すべく診療を行っており、常に最先端の情報を国内外から得ながら、日本トップレベルの医療を患者様に提供しています。その中から社会貢献につながるような独創的な研究を、臨床・基礎のレベルで行っており、国内のみならず国外学会、海外英文誌に広く報告しています。同時に若手医師、研修医、学生の教育を豊富な症例の中で行い、働く人々が誇りと希望を持って積極的に活動するために必要な組織・体制を構築しながら、21世紀のグローバル社会において、高度専門職業人として活躍できる優れた人材を育てるよう力を入れています。このように優れた教育、研究、医療を通して地域発展をリードし、豊かな社会づくりに貢献できるよう努力しています。

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