福井大学医学部 病態制御医学講座 循環器内科学
教授 夛田 浩
はじめに
循環器内科学講座は、平成24年8月、既存の内科学教室とは独立した新しい講座として開講しました。内科学第1教室と内科学第3教室の循環器研究室にそれまで勤務されていた先生方が参加する形で発足しましたので、若い先生が多い研究室ではありますが、循環器内科の診療・研究・教育を行う人材とシステムは既に構築されており、開講後も全く問題なく円滑に教室運営ができております。赴任後、はや一年を迎えようとしていますが、若い循環器内科医の先生方と毎日楽しく働かせていただいております。
人口の高齢化に伴い福井県、およびその近隣においても循環器疾患症例数は急増しております。したがって、当科では循環器領域の診療(臨床)、研究、そして教育の3つ領域をバランスよく推し進めてきたいと考えますが、その中でも特に診療とその診療に基づいた研究(臨床研究)、そして、若手医師・学生の教育に重点をおいて教室運営を進めて行きたいと考えています。確固たる内科全般、そして循環器領域の専門診療ができる技術を身につけた医師を育成すること、そしてそれを循環器疾患患者様に充分に施行できる環境を築くことが極めて大切であると考えています。
診療
循環器疾患診療の特徴、および循環器専門医として要求されることは、1)検査として心電図、超音波検査、およびCT/MRI/核医学/PET 検査など、多くの非侵襲的検査を用いることが可能であり、これらの検査結果を基にして最終診断を行うことも多いため、これらの検査に精通していることが大切であること、2)急性心筋梗塞や急性心不全など緊急対応を要する疾患が多く、救急診療能力を身につけることが不可欠であること、そして3)治療に関しては、経皮的冠動脈(PCI)・末梢動脈形成術、不整脈に対するカテーテル・アブレーション、徐脈性不整脈に対するペースメーカー植込み術、植え込み型除細動器(ICD)や心臓再同期療法(CRT)専用器のデバイス植込み術とその後のデバイス管理、等の一定レベル以上の経験と技術を要する非薬物治療が可能となってきており、循環器医としてこれらの手技を行える技量を身につけることが大切であること、だと考えます。
当科では、これらの検査・手技に精通し、安全、かつ正確に施行できる循環器臨床医の育成を目指します。とくに1)と2)は循環器臨床医として必要不可欠であり、3)に関しては、将来、自らが上記の非薬物療法を施行することがなくてもその治療の適応があるかどうかの判断において、正確、かつ迅速に行えるような知識と経験を積んでいただけるように心がけたいと思います。
本学はPCI、カテーテル・アブレーション、およびデバイス植込み術の認定施設であり、今後、それらの数をさらに延ばしていければと考えております。また、近々、本邦でも施行可能となる薬剤抵抗性高血圧に対する腎動脈アブレーションや経カテーテル大動脈弁置換術(TAVI)も循環器内科医が施行する手技であり、当科でも積極的に施行していければと考えています。そして、今後もより多くの症例(特に高度先進医療等の積極的な治療を要する重症例)を受け入れて診療していきたいと考えています。
臨床研究
私はこの20年余りの間、臨床研究、特に不整脈領域の臨床研究を積極的におこなってきました。自分が直接診ている症例に関しての不明点や疑問点を研究テーマとして研究をおこなうことは臨床医として極めて大切であると考えますので、今後も臨床研究を継続して積極的におこなっていきたいと考えます。また、近年、最先端の画像診断モダリティを用いた研究、学際研究、産学連携、およびトランスレーショナルリサーチが注目されており、これらも積極的におこなっていきたいと考えています。
幸いなことに当科開講前より宇隨先生、荒川先生、そして天谷先生を中心に多くの臨床・基礎研究が行われてきております。これらに関しては中止することなく、ますます頑張っていただけるよう、そして成果を出していただけるように精一杯のサポートをして行きたいと思っています。私は本学の大学院生のときに薬理学領域教授の村松郁延先生に一年間、ご指導いただきました。このように学内外には素晴らしい基礎・臨床研究の先生方が数多くおられます。門戸を閉ざすことなく、もし希望があれば学内、あるいは学外出向という形で基礎・臨床研究を行っていただければと思っております。
教育
実技指導も含めた質の高い臨床教育を推進することにより、「医療の卓越性」、すなわち習得が難しい手技ができる「卓越した」医療を提供できる医師を大学病院、関連病院、およびかつて在籍しました循環器専門センターと協力しながら育成することが極めて大切だと考えています。同時に、循環器内科医師全員の診療レベルを向上させることにより、医局員の中のだれが診療を行っても一定レベル以上の質の高い医療を確実に提供できる「医療の確実さ」も確保していきたいと考えています。また、近年、患者の多様化が進んできておりますので、患者個々のニーズと期待に応える医療を設計し実現してゆくことができる「患者本位」の質の高い医療を提供できる医師を育成することを目指し、本学ならびに地域医療に貢献していきたいと思います。さらに前述のように、臨床研究を推進して直接指導することにより臨床医の診療意欲および研究意欲を高めて行こうと思っています。循環器疾患の診療に興味を持たれている後期研修医の先生がおられれば是非とも入局いただければと考えています。医局員一同で責任を持って指導していきたいと考えています。
地域医療
地域医療は福井県では極めて重要であり、救急部の協力の下に緊急症例、および地域の病院で対応できない重症症例の受け入れを積極的に進めていきたい。また、病診・病病連携を推し進めるとともに関連病院との人的交流も進めていきたいと考えています。
最後に
本年8月の時点で、福井県の人口は80万人を切り、病院数は47都道府県中41位と極めて少ない状況です。65歳以上の高齢者が県人口の1/4以上を占めており、循環器疾患症例のさらなる増加が見込まれ、当科にかかる期待と責任はより大きいものになると考えます。当科が、福井県、北陸地域、そして全国の循環器診療・研究・教育の中心となっていけるように医局員全員で力を合わせて頑張っていきたいと考えています。今後も一層のご指導、ご鞭撻を賜りますよう、どうぞよろしくお願いします。